うずしおの『経過観察中』

日記みたいなもの

『罪と罰』感想

近所の王将で『お客様の感想』のアンケートが貼られているボードがあるんですけど、そこに書かれている『接客が悪い』『二度と来ようと思わない』みたいな客の★1の低評価と罵詈雑言の嵐と、敢えてその感想を貼り出そうとする店側の破れかぶれな男気とのぶつかり合いに、葛飾区の闇を見ています。渦潮です。

罪と罰』を読了しました。

罪と罰〈上〉 (新潮文庫)

罪と罰〈上〉 (新潮文庫)

鋭敏な頭脳をもつ貧しい大学生ラスコーリニコフは、一つの微細な罪悪は百の善行に償われるという理論のもとに、強欲非道な高利貸の老婆を殺害し、その財産を有効に転用しようと企てるが、偶然その場に来合せたその妹まで殺してしまう。この予期しなかった第二の殺人が、ラスコーリニコフの心に重くのしかかり、彼は罪の意識におびえるみじめな自分を発見しなければならなかった。

カラマーゾフの兄弟』は以前読んでいたのですが、『罪と罰』の方は学生の頃に敬遠していた書籍で、第一部で主人公が殺人を犯すところが馬鹿らしいと感じていて、食指がどうしても伸びなかったんです。

ただ読んだら絶対に面白いとは思っていたので、そういうときは途中の判断や前情報で読むのを辞めたりしないで、読み終えてから感想を作ろうと考えて読むようにしています。

この作品の面白いところは、後半に行くにつれて犯罪を犯したという不利の色が強くなっていくラスコーリニコフが、最愛の妹や貧しい娼婦のソーニャを食い物にしようとする複数の『悪』と熾烈な対立を繰り広げるところでした。

妹ドゥーニャの婚約者ピョートルや、付け狙うスヴィドリガイロフ、そしてラスコーリニコフを殺人犯だと信じて追及の手を迫らせるポルフィ―リィ。彼らの悪党としての醜悪さや、敵としての強大さが読む者をはらはらさせるほどはっきりと描かれており、みじめで無力だが、我慢ならない言葉だけははっきりと言うことのできるラスコーリニコフが物語のなかで成長していっているようにも読めました。サスペンスドラマとして通読することができる作品です。

もちろん1860年代のペテルブルグの風習や、町に住む大衆的人々や両親、友人の『多弁』もドストエフスキーの持ち味ですね。

ラズミーヒンの友情には心を打たれました。

「おい、待ちたまえ!」ラスコーリニコフがまた逃げ出そうとして動き出したのを見て、彼は憤然として叫んだ。「おわりまで聞きたまえ! きみも知ってると思うが、今日はぼくの引っ越し祝いで友人たちが集まるんだ。いま頃はもう来てるかもしれん、でも伯父がいてくれるから、来客たちの接待はたのんであるが、――わざわざかけつけてくれたんだ。そこでだ、もしきみがばかでないなら、下司なばかでないなら、石頭の大ばかでないなら、外人の猿まねでないならばだ……ねえ、ロージャ、はっきり言うけど、きみは青くさい秀才だ、決してばかじゃないよ!――そこでだ、もしばかでないならだ、むだに靴底をへらすよりは、今夜ぼくの家へ来て、いっしょにすごすことだ、そのほうがずっといいよ。もう外へ出てしまったんだから、しょうがない! きみには特別やわらかい安楽椅子をかりてやるよ、おかみの部屋にあるんだ……茶を飲んで、みんなで話をして……それがいやなら、――寝椅子に横になっていたらいい、――とにかくぼくらといっしょにいることだ……ゾシーモフも来るよ。どう、来てくれるかい?」

「行かないよ」

「う・そ・をつけ!」ラズミーヒンはじりじりしながらどなった。

「それがどうしてわかる? きみは自分に責任がもてない男だよ! それにきみはこういうことが何もわかっちゃいないのだ……ぼくは千度もちょうどいまみたいに人々と喧嘩わかれをしてさ、また仲直りをしてきたんだよ……恥ずかしくなって――相手のところへもどって行く! じゃおぼえていてくれ、いいね、ポチンコフのアパート、三階だよ……」

「なるほど、ラズミーヒンくん、あなたはそんなふうにして親切の押し売りという自己満足のために、誰かに自分をなぐらせることを許すんですかねえ」

「誰を? ぼくを! そんなこと考えただけでも、そいつの鼻ッ柱へしおってやるよ! ポチンコフのアパート、四十七号、バーブシキンて官吏の住居だよ……」

「行かんよ、ラズミーヒン!」

ラスコーリニコフくるりと背を向けて、はなれて行った、

「賭けをしてもいい、きっと来るさ!」とラズミーヒンはそのうしろ姿に叫んだ。

ドストエフスキーがどのような時期にこの作品を書いたかというのも後で調べたのですが、この手の作家は大抵ぶっ壊れた生活のなかで作品を書き上げていますね。

まるで崩れ落ちる線路の上を走り抜けるように、病気、借金苦、孤独、賭博や放蕩、激しい恋愛と破局、そんなものの合間に書いていたりするのです。

この人はよく60まで生きたなと思います。

明日以降はいままで読んできた本を再読します。小山歩さんの『戒』という作品なんですけども、久しぶりに読みたくなりました。

昔一番評価していた小説なのですが、いま読んだらどういう感想が、そしてじりじりとした想念が湧くんでしょう。

読むの遅いので、また掛かりますが、本の感想も書いていけたらと思っています。

それでは。